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「あ」
声を出したのは同時で、視線が合ったまま動かなくなったのも同時だった。 お互い毎日使う駅ではないだけに、偶然が重なったというところだろう。 これは何かの因縁か思惑か――戸惑ったところで、目の前の現実が変わるはずもない。 ふいに息を吐き、笑みを零すことさえ一緒だった。 それにまた、お互いおかしくなってしまう。 「久しぶりだな」 「うん――元気?」 つい口に出したが、会っていない時間より付き合っていた時間のほうが長い二人だ。 顔を見れば体調くらいはよく分かった。 「営業か? 帰り?」 「そっちも?」 「まぁな。これから・・・時間ある? ちょっと飲んで行かないか?」 「いいね」 断る理由など、どこにも見当たらなかった。 後ろめたいことなど何もなかった。 だから躊躇いもなく、久しぶりに肩を並べて歩いた。 久しぶりだと感じ、そしてこの空気が嫌いではなかったと思い出すのは、ミチルも柘植も一緒だった。 「最近どう?」 チェーン店の居酒屋は週末というのもあって混み合っていたが、二人が座るにはさほど待つこともなかった。 カウンタの席に二人並び、慣れた呼吸で飲み物といくつかのつまみを頼み、軽くグラスを合わせてミチルが訊いた。 「仕事か?」 「も、そうだけど。あの小さな子と。一緒に暮らしてるんだろう?」 本当に、偶然に知ってしまった柘植の恋人を思い出した。 柘植は楽しそうに笑って、 「小さいって・・・そりゃお前より小さいが、それほど子供でもないんだが」 「いくつ?」 「19」 「・・・未成年じゃないか」 「あー、俺も歳聞いたときはびっくりしたけどな。もっと下かと思ってさ。でも今、とりあえず大検受けさせてるよ」 「へぇ」 「高校行ってないって言うからさ・・・頭は悪くないんだ。やりたいこと見つけさせるのに、勉強も悪くないと思って・・・なんだよ?」 言いながら、目の前でミチルがおかしそうに笑うのに気付き、眉根を寄せる。 「・・・いや、柘植がそんな過保護だったとはね、と」 ミチルと知り合ったのは大学の時で、すでに自分のペースを守ることを知っていた二人の付き合いは、冷めているわけではないがお互いのプライベートは大事にするルールが出来ていた。 柘植はミチルが言わんとしていることを自分でも気づいていて、自覚もあるからか、開き直ってグラスの中身を飲み干した。 「――悪いか。俺もヤバイなとは思ってるけどな。気を抜くと逃げようとするからな、あいつ・・・」 「逃げられるのか? お前が?」 「おー。もうな、出来るなら鎖につないでおきたいくらいだ」 もう隠すこともなく言い切る柘植に、ミチルはさらに面白そうに笑った。 「今日もこんなところで俺といる場合じゃないんじゃないのか?」 「うーん・・・ちょっと電話してくる」 携帯を取り出しながら騒がしくない方へ向かう柘植の背中に、ミチルも思い出して携帯を取った。 しかし相手が出られる状況にあるとは限らないので、メールを打っただけだ。 つづく PR |
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