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【2025/06/17 07:33 】 |
恋の終わる話をしよう 1
「あ」
声を出したのは同時で、視線が合ったまま動かなくなったのも同時だった。
お互い毎日使う駅ではないだけに、偶然が重なったというところだろう。
これは何かの因縁か思惑か――戸惑ったところで、目の前の現実が変わるはずもない。
ふいに息を吐き、笑みを零すことさえ一緒だった。
それにまた、お互いおかしくなってしまう。
「久しぶりだな」
「うん――元気?」
つい口に出したが、会っていない時間より付き合っていた時間のほうが長い二人だ。
顔を見れば体調くらいはよく分かった。
「営業か? 帰り?」
「そっちも?」
「まぁな。これから・・・時間ある? ちょっと飲んで行かないか?」
「いいね」
断る理由など、どこにも見当たらなかった。
後ろめたいことなど何もなかった。
だから躊躇いもなく、久しぶりに肩を並べて歩いた。
久しぶりだと感じ、そしてこの空気が嫌いではなかったと思い出すのは、ミチルも柘植も一緒だった。
 
 
「最近どう?」
チェーン店の居酒屋は週末というのもあって混み合っていたが、二人が座るにはさほど待つこともなかった。
カウンタの席に二人並び、慣れた呼吸で飲み物といくつかのつまみを頼み、軽くグラスを合わせてミチルが訊いた。
「仕事か?」
「も、そうだけど。あの小さな子と。一緒に暮らしてるんだろう?」
本当に、偶然に知ってしまった柘植の恋人を思い出した。
柘植は楽しそうに笑って、
「小さいって・・・そりゃお前より小さいが、それほど子供でもないんだが」
「いくつ?」
「19」
「・・・未成年じゃないか」
「あー、俺も歳聞いたときはびっくりしたけどな。もっと下かと思ってさ。でも今、とりあえず大検受けさせてるよ」
「へぇ」
「高校行ってないって言うからさ・・・頭は悪くないんだ。やりたいこと見つけさせるのに、勉強も悪くないと思って・・・なんだよ?」
言いながら、目の前でミチルがおかしそうに笑うのに気付き、眉根を寄せる。
「・・・いや、柘植がそんな過保護だったとはね、と」
ミチルと知り合ったのは大学の時で、すでに自分のペースを守ることを知っていた二人の付き合いは、冷めているわけではないがお互いのプライベートは大事にするルールが出来ていた。
柘植はミチルが言わんとしていることを自分でも気づいていて、自覚もあるからか、開き直ってグラスの中身を飲み干した。
「――悪いか。俺もヤバイなとは思ってるけどな。気を抜くと逃げようとするからな、あいつ・・・」
「逃げられるのか? お前が?」
「おー。もうな、出来るなら鎖につないでおきたいくらいだ」
もう隠すこともなく言い切る柘植に、ミチルはさらに面白そうに笑った。
「今日もこんなところで俺といる場合じゃないんじゃないのか?」
「うーん・・・ちょっと電話してくる」
携帯を取り出しながら騒がしくない方へ向かう柘植の背中に、ミチルも思い出して携帯を取った。
しかし相手が出られる状況にあるとは限らないので、メールを打っただけだ。



つづく
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【2012/10/26 08:04 】 | 恋の終わる話をしよう | 有り難いご意見(0)
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