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王さまの後継者について、五老院の驚きようというのは 半端じゃなかったし、朝からのご生誕祭と引退式も大変な盛り上がりとなった。 王さまは爽やかにご自分の後継者として双子の弟を そして華々しく王さまは王さまを辞められたのだ。 王さまを辞められた王さまと私は、そのまま王宮を出ることになった。 「いやあいい天気で良かったな。絶好の王引退日和だ」 そんなにこやかにいう王さまを辞められた王さまは 私と一緒に馬車に揺られながら、王さまを辞められた王さまは 私は小さくなる王宮を振り返りながら、小さくため息を吐いた。 「王さま、こんなに早く出てきてしまって良かったのですか?」 「どうして? もう私は王じゃないよ」 「いえ・・・ですが事後処理も」 「ああ、私の仕事については弟もお前の兄も いったいいつの間に、という私の顔を 「これで私は望み通り自由になったのだから、 「で、ですけど」 「それに私はもう王じゃないよ」 「あ・・・」 言われて、私は王さまを辞められた王さまを呼ぶことを躊躇った。 なにしろ、私が生まれた時から王さまは王さまでいらっしゃったのだ。 お名前を知っていても恐れ多くて口にすることなど出来ない。 「昨夜は許したけれど、今夜からは私の名を呼んで縋って欲しいものだね」 「あ・・・っ」 私は全身が疼くかのように真っ赤になってしまった。 こんな日の高い馬車のなかで、この方はなんてことをおっしゃるのだろう。 私が真っ赤になって言葉を失くしているというのに、 それがなんだかとても悔しくて、でも嬉しくもあって、 「それより、今はどちらへ向かわれているのです?」 「決まっているじゃないか。ラクダに乗って砂漠を旅するんだよ!」 まだ諦めていなかったのか! まったく変わらない王さまのままで、私は思わず吹き出してしまった。 王さまを辞められても王さまは王さまのままだった。 私はこれまで感じていた不安がすべて消えてしまうのがよく解った。 どんなことがあっても、どんな場所にいようとも、 私のただひとりの、王さまのままなのだ。 私は嬉しくなって、初めて王さまの名を口にすることにした。 きっとこの方は、とても喜んでくださるに違いない。 今日も明日も明後日も、私の未来は私の王さまとずっと一緒だ。 PR |
「気持ちとか、王さまのいう通りとか、勢いだとか、 それは私のことなんですか?」 正直ちょっと、勝てると思わないのは だけど私も負けるわけにはいかない。 なぜなら王さまの言葉が、私を動揺させるからだ。 「貰う」というのは、いったいどういうことなのだろう。 私はどうなるのだろう。 不安も入り交ざった気持ちに、王さまは世界に何の異常も 「私が王を辞めたあとで、お前だけここに残っていても どこへ。 王さまの突拍子もない発言に、私は混乱して 呆然としたままの私に、王さまはやっぱり変わらない顔で答えられた。 「どこへでも。だって私は自由になるのだから」 「自由になるのは明日の式が終わってからだ」 「最後まできっちりと仕事をしてもらわなければ にこやかな王さまの隣で難しい顔をする兄と ひとしきりまた三人で言い合った後で、 「さて、今頃混乱して右往左往してる五老院たちに説明してくるかな」 「きっと盛大に慌ててくれることだろう」 「しわくちゃジジィ共の歪んだ顔はさぞ見ものだな」 いつもは王さまに小言を言ったり自分の欲を 三人は私を置いて部屋を出て行かれようとしたが、 「お前を騙す形で悪かったけど、お前の気持ちが 私の頭を撫でて言ったのは兄だ。 「お前が優秀な小姓だということはよく聞いている。 兄と同じところを撫でて言ったのは王さまの双子の弟だ。 「遅くなるけれどここへ帰ってくるから、 私の頬を掬うようにして顔を上げ、耳に口付けと一緒に あまりにたくさんのことがありすぎてまだ混乱から そしてドアが閉じられ、王さまの自室に何の音も 全身が沸騰してしまうかと思った。 |
王さまの双子の弟は、命を取らないまでも 王宮にそのまま居続けると本人の知らないところで 勝手に何かの駒にされかねない雰囲気だったので、 王さまのお父上はひっそりとその存在を消すことにされたそうだ。 王さまの双子の弟は、自分の出自を知りながら 王さまはそれを知っていたし、 繋ぎ役は、もちろん王さまの乳兄弟で幼馴染でもある、兄だ。 王さまの双子の弟が生きていたことは納得できた。 しかし、だからといって今のこの状況が納得できるかといえば、否だ。 私は年上の三人をまっすぐに見つめた。 全身から怒りのオーラが出ていたのは、仕方のないことだろう。 「それで、その弟さまが、どうして兄と一緒に 納得できる説明をもらうまでは決して誤魔化されるものか、と 「インパクトがあるだろう?」 それで、澄ますお積りだろうか。 本気で、と私がいっそう強く睨んでも むしろ兄と王さまの双子の弟のほうが心配そうな顔をしただけだ。 「それより、この子の気持ちを確かめたら、 「それは・・・」 「いや、勢いで言っただけかもしれない。もう一度確認したほうが」 年上の三人は、私のことを言っているようだが いったい何が、どうしてこの状況なのかまず最初に説明を |
どういうことだろう。 質問する目をいったいどこに向ければいいのか一瞬解らなかった。 なにしろ銃を向けられた王さまと銃を持ったテロリストが 私を「お前」と呼ぶ気安い雰囲気を持つテロリストは、 私は素顔を見て、テロリストが王宮を襲ったと聞いたときより目を開いて驚いた。 「――兄さん?!」 片眉を上げて苦笑する顔は、最近会うことも少なくなったけれど そして王さまに銃を向けていたテロリストもそれを肩に上げ、 その素顔に、私は開いた口が閉じることが出来なかった。 最初から最後までソファで寛ぐ、王さまそっくりだったからだ。 服装はテロリストそのもので、髪も少し長めだしどちらかというと 私は息が止まるほど驚いたものの、必死で頭を働かせる。 王さまと同じ顔だ。 考えて、ありそうな事実はひとつしかない。 産まれてすぐに存在を消されたという王さまの双子の弟だ。 しかし私は今まで王宮で、王さまの弟が ただ似ているという、まったくの他人なのだろうか。 動揺に揺れるも、その考えが真意でないと私は 「まさか――」 嗄れる声で確かめようとすれば、王さまがとても楽しそうに笑われた。 「あの優しい父が、自分の子供を本当に殺すと思うかい?」 私は王さまのお父上を間近では知らないけれど、 |
テロリストが王さまのことを知っているのは驚いたが、 私には別の気持ちで溢れかえっていた。 明日で王さまは王さまを辞める。 だからといって、王さまがこの世から いや、むしろ、王さまでなくなったらいなくなるというのなら、 「王さまは必要な方です。誰よりも必要な方です」 「誰にとって必要なのだ。王でなくなるのなら、 「この男がこの国を腐敗させたのだ。王だからな。 テロリストから次いで言われて、 「必要なんです! 生きていくために! 王さまでなくなっても、 この気持をどうしたら解かって貰えるのだろう。 王さまが王さまであることが大事なのではない。 私にとって誰よりも大事な方が、何より大切な王さまなのだ。 「銃を下してください。私に向けてください」 目が熱い。 泣いてなどいられないと思ったのに、感情が高ぶってしまっている。 王さまを見ると、銃を向けられているというのに 王さま、状況を解かっていらっしゃいますか? どうして殺されようとしているのに、そんなに嬉しそうなんですか。 「ほら、言ったとおりだろう? この子は私が貰って行くよ」 王さまは笑顔のまま、テロリストに話しかけた。 王さまに銃を向けていないテロリストが 肩を下ろし、お手上げだ、というようなポーズだ。 「まったく、こんな王のどこがいいんだお前は」 「すべてに決まっているじゃないか、ねぇ?」 テロリストと王さま、二人から言われたのは私だ。 いったい――どういうことだ? 私は変化した状況に、今度こそ頭がついて行かなかった。 つづく |