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中に入ったとたん、私は硬直した。 一歩部屋へ入った私の横をドアが音もなく閉まっても、 大きなソファは王さまのお気に入りだ。 そこにいつものように座る王さまに、いつもはいない男が二人。 覆面をしたテロリストだった。 両手で持つ銃を構え、一人はその先を王さまの頭に向けている。 室内の三人から見つめられていたけれど、 しかしいつまでもこうしていても状況は変わらないのだ。 私は何度か大きく息を吸い込み吐き出し、 「要求は・・・なんですか。何でも伺いますから、 「我々の目的はひとつ」 王さまに銃を向けた男が言った。 覆面をしているせいか、くぐもった声になっている。 「この国の政治体制を変える。そのために、 憂国? 国の未来? 王さまの頭に銃を向けておいて、 私はテロリストの言葉を馬鹿げているとしか思わなかったが、 私は一度頷いた。 「この国を想うあなた方の気持ちは解かりました。 一度も揺らぐことなく、私は言い切った。 この言葉に何の偽りもない。 王さまが王さまでなくなるのであれば、 だけど王さまが殺されることを考えたら、 倒れる王さまなんて、見たくないのだ。 もう一人のテロリストが私を真っ直ぐに見詰めた。 「この王は、明日引退するのに、命を守るのか?」 PR |
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毎日を噛みしめるようにして、最後を迎えようと 気付けば明日、王さまは王さまを辞めてしまわれる。 ご生誕祭とその発表をされるのとで、 それも落ち着いたのは深夜になってからで、 私は式を進める祭官さまから何度も話を伺い、 ようやく落ち着きを見せたような王宮が、 「テロリストだ!」
誰かが叫んだ言葉を、私は一瞬なんのことか理解出来なかった。
しかしバタバタと慌ただしく走る衛兵や、 「突然後宮の中に武装集団が現れたらしい」 「逃がすな! 門を固めろ、進入路を確かめろ!」 怒鳴り合う声が行き交う中、私は何故か閃いた。 噴水だ。 巨大な噴水のある池からの排水は、 その排水溝も大きく、水が流れていないときは いったいどれほどの規模のテロなのかは解からないが、 自室で私を待っているはずの王さまの姿しか思い浮かばず、 王宮に入り込んだテロというのなら、 王さま。 王さま王さま。 心臓が爆発しそうなのは、全力で走っているからではなかった。 私は泣きそうになるのを必死に耐えて、王さまの部屋まで駆け抜けた。 「王さま!」 中のことなんて何も考えず、私は扉を力いっぱい開けた。 |
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その真ん中、この王宮の真ん中になると言ってもいい場所に、 大人が泳げるほどの、というのは比喩ではなく、 噴水から汲み上げられた水は噴水の周りの池に溢れ それが急に止まってしまったのだ。 王さまを庭にお連れしたとき、 すでに噴水の周りは王宮の人間がいて、 「おや、本当に止まっているね」 王さまののんびりした声が不釣り合いに聞こえるほどだ。 担当者が頭を低く低くして謝り、すぐに直しますと 「別にこのままで構わないだろう」 「なんとおっしゃいます?」 「この噴水は私が生まれたときから水で溢れていた。 「そんな!」 一様に口々に困惑を表しても、こう決めてしまった王さまに 私は溜息を吐いて、止まってしまった噴水を改めて見た。 大きな噴水と池だった。 こんなことなら、王さまがここで泳いだときに誘ってくださったことを つづく |
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王さまは受け取らない私にむくれた顔をされたけれど、 王さまのいない王宮で、王さまに頂いたものを眺めて暮す。 私はそんな自分が想像できなかった。 王さまがいなくなった後、私はどうするのだろう。 胸にいっぱい広がった不安を押し殺すように、 「そんなことより王さま、後宮の庭でちょっと・・・」 「ええ? まだ朝早いよ。私は徹夜明けなんだよ、 「徹夜されたのは王さまのご勝手ですが、 文句を言い連ね不機嫌な顔の王さまに着替えを渡し、 毎日のことと思っていたけれど、これも考えればもう少しのことなのだ。 もっとゆっくり、ひとつひとつを忘れないように時間をかけてしまいたい。 しかしそうすると、王さまのいない場所で私は それはなんて辛いことなんだろう。 王さまのいない場所で、王さまを忘れて暮すのか、 どちらが苦しいことだろうと私は真剣に考える。 王さまの服を着た王さまは、誰より似合っている王さまだった。 一度も言ったことはないけれど、毎日見惚れているのが事実だ。 この先も言う予定はない。 また見惚れている私に王さまは振り返り、私は仕事を思い出した。 「それで、朝早くからなにがあったんだい?」
「噴水の水が止まってしまったそうです」 つづく |
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王さまが辞めると決めてしまわれた 王さまはお寝坊さんで、いくらいっても なので王さまの行動はいつもお昼前からだ。 そう決められてしまって、もう随分経つ。 いや、きっと新しい王さまは規則正しい王さまになって でもそこにはもう王さまはいないのだ、と思うことが、 いつもの起床より少しだけ早く、私は王さまの部屋を訪れた。 「ちょうどいいところに! これを見てくれ! ついに完成したんだ!」 まだ大きな天蓋の付いたベッドの奥で隠れるように 「・・・なんですか?」 いやに早起きだ。 まさかとは思うけれど、まさか。 「孔雀の落とした羽を拾い集めて綺麗なものを そういえば数年前からそんなことを言って広大な庭にいる 「王さまでいるうちに完成して良かったよ。いや私は勤勉だからね? そうですね。 王さまを辞めると決めたこともどうやら 私は酷く痛みを覚える頭を抱えた。 「さあ、受け取ってくれ」 「私に?」 「そうだよ? 綺麗だろう?」 これを、私に? 私は驚いたけれど、受け取れなかった。 空いた時間で折った鶴とは違うのだ。 こんな気持ちを込められたものを頂いて、 つづく |
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