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【2025/06/17 07:36 】 |
王さまをやめる日 10

中に入ったとたん、私は硬直した。

一歩部屋へ入った私の横をドアが音もなく閉まっても、
私は動けなかった。

大きなソファは王さまのお気に入りだ。

そこにいつものように座る王さまに、いつもはいない男が二人。

覆面をしたテロリストだった。

両手で持つ銃を構え、一人はその先を王さまの頭に向けている。

室内の三人から見つめられていたけれど、
私は王さましか見えなかった。

しかしいつまでもこうしていても状況は変わらないのだ。

私は何度か大きく息を吸い込み吐き出し、
震える声をなんとか抑えて口を開いた。

「要求は・・・なんですか。何でも伺いますから、
とりあえずその銃をおろしてください」

「我々の目的はひとつ」

王さまに銃を向けた男が言った。

覆面をしているせいか、くぐもった声になっている。

「この国の政治体制を変える。そのために、
我々は立ち上がった。国の未来を憂う憂国集団だ」

憂国?

国の未来?

王さまの頭に銃を向けておいて、
いったい何を言っているんだろう。

私はテロリストの言葉を馬鹿げているとしか思わなかったが、
王さまの命が晒されている今、相手を挑発するのはまずい。

私は一度頷いた。

「この国を想うあなた方の気持ちは解かりました。
けれど武力をもって改革を行うのはどうかと思います。
今は良くとも、後々何かが起こったとき、また武力に
頼ることになる。それでは国は成り立ちません。
話し合いの席を設けましょう。それでも誰かが
血を流さなければならないというのなら、私にそれをお願いします」

一度も揺らぐことなく、私は言い切った。

この言葉に何の偽りもない。

王さまが王さまでなくなるのであれば、
その後の国がどんな体制だって構わない。

だけど王さまが殺されることを考えたら、
私はその前に死んでしまいたい。

倒れる王さまなんて、見たくないのだ。

もう一人のテロリストが私を真っ直ぐに見詰めた。

「この王は、明日引退するのに、命を守るのか?」


つづく

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【2011/01/08 12:17 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 9

毎日を噛みしめるようにして、最後を迎えようと
気持ちを落ち着けていても、時間はあっという間に流れてしまった。

気付けば明日、王さまは王さまを辞めてしまわれる。

ご生誕祭とその発表をされるのとで、
王宮は用意に慌ただしくなっていた。

それも落ち着いたのは深夜になってからで、
最終確認や段取りの確認などをしてしまえばもう明日を待つのみだ。

私は式を進める祭官さまから何度も話を伺い、
王さまに確認していだこうと王さまの部屋へ向かっていた。

ようやく落ち着きを見せたような王宮が、
再び騒がしくなったのはその時だ。

 

「テロリストだ!」

 

 

誰かが叫んだ言葉を、私は一瞬なんのことか理解出来なかった。

 

しかしバタバタと慌ただしく走る衛兵や、
逃げているのか確かめようとするのか人が
行き交うのを見て、事態を理解する。

「突然後宮の中に武装集団が現れたらしい」

「逃がすな! 門を固めろ、進入路を確かめろ!」

怒鳴り合う声が行き交う中、私は何故か閃いた。

噴水だ。

巨大な噴水のある池からの排水は、
そのまま王宮の外へ流れ出る。

その排水溝も大きく、水が流れていないときは
大人が平気で通れるほどなのだ。

いったいどれほどの規模のテロなのかは解からないが、
私が思ったのは王さまのことだけだ。

自室で私を待っているはずの王さまの姿しか思い浮かばず、
私は走りだした。

王宮に入り込んだテロというのなら、
目的のひとつは王さまのはずだ。

王さま。

王さま王さま。

心臓が爆発しそうなのは、全力で走っているからではなかった。

私は泣きそうになるのを必死に耐えて、王さまの部屋まで駆け抜けた。

「王さま!」

中のことなんて何も考えず、私は扉を力いっぱい開けた。


つづく

【2011/01/04 11:52 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 8


今は誰も入っていらっしゃらない後宮には、
大きな庭園がある。

その真ん中、この王宮の真ん中になると言ってもいい場所に、
大人が泳げるほどの噴水がある。

大人が泳げるほどの、というのは比喩ではなく、
大人になった王さまが泳いでいらっしゃったから事実として言う。

噴水から汲み上げられた水は噴水の周りの池に溢れ
そのまま排水溝を通り王宮の外へ流れ出る。

それが急に止まってしまったのだ。

王さまを庭にお連れしたとき、
私は初めて水が溢れていない噴水を見た。

すでに噴水の周りは王宮の人間がいて、
原因を確かめようと必死だった。

「おや、本当に止まっているね」

王さまののんびりした声が不釣り合いに聞こえるほどだ。

担当者が頭を低く低くして謝り、すぐに直しますと
必死になっているのに、王さまは噴水を見ただけで首を横へ振られた。

「別にこのままで構わないだろう」

「なんとおっしゃいます?」

「この噴水は私が生まれたときから水で溢れていた。
水のない噴水も新鮮で、それを見ながら終わるのもいいだろう。
別に誰も困らないんだ。このままにしておいてくれ」

「そんな!」

一様に口々に困惑を表しても、こう決めてしまった王さまに
何を言っても無駄なことは誰もが知っている。

私は溜息を吐いて、止まってしまった噴水を改めて見た。

大きな噴水と池だった。

こんなことなら、王さまがここで泳いだときに誘ってくださったことを
断るんじゃなかったと私は後悔してしまった。


つづく
【2010/12/29 11:49 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 7


「お前にあげようと思って頑張ったのに」

王さまは受け取らない私にむくれた顔をされたけれど、
私にも我慢出来ることと出来ないことがある。

王さまのいない王宮で、王さまに頂いたものを眺めて暮す。

私はそんな自分が想像できなかった。

王さまがいなくなった後、私はどうするのだろう。

胸にいっぱい広がった不安を押し殺すように、
私は朝早くに王さまを起こしに来た用事を告げた。

「そんなことより王さま、後宮の庭でちょっと・・・」

「ええ? まだ朝早いよ。私は徹夜明けなんだよ、
これからもう一眠り」

「徹夜されたのは王さまのご勝手ですが、
お仕事です! さあ早くお着替えください」

文句を言い連ね不機嫌な顔の王さまに着替えを渡し、
急き立てて衣服を整える。

毎日のことと思っていたけれど、これも考えればもう少しのことなのだ。

もっとゆっくり、ひとつひとつを忘れないように時間をかけてしまいたい。

しかしそうすると、王さまのいない場所で私は
王さまのことだけを想い暮すのだ。

それはなんて辛いことなんだろう。

王さまのいない場所で、王さまを忘れて暮すのか、
王さまを想い暮すのか。

どちらが苦しいことだろうと私は真剣に考える。

王さまの服を着た王さまは、誰より似合っている王さまだった。

一度も言ったことはないけれど、毎日見惚れているのが事実だ。

この先も言う予定はない。

また見惚れている私に王さまは振り返り、私は仕事を思い出した。

「それで、朝早くからなにがあったんだい?」

 

「噴水の水が止まってしまったそうです」


つづく
【2010/12/28 12:13 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 6

王さまが辞めると決めてしまわれた
ご生誕祭まであと一週間の日。
「王さま、ちょっとよろしいでしょうか」

王さまはお寝坊さんで、いくらいっても
早くに起きるということが出来ない。

なので王さまの行動はいつもお昼前からだ。

そう決められてしまって、もう随分経つ。
誰もがその調子に慣れてきているのに、
この先どうなるのだろうと私は不安になってくる。

いや、きっと新しい王さまは規則正しい王さまになって
普通の王さまと王宮になるだろうけれど。

でもそこにはもう王さまはいないのだ、と思うことが、
私は耐えきれなくてあまり考えないようにしていた。

いつもの起床より少しだけ早く、私は王さまの部屋を訪れた。

「ちょうどいいところに! これを見てくれ! ついに完成したんだ!」

まだ大きな天蓋の付いたベッドの奥で隠れるように
眠っているとばかり思っていた王さまは、元気いっぱいに
私に向かって大きな扇を見せてくださった。

「・・・なんですか?」

いやに早起きだ。

まさかとは思うけれど、まさか。

「孔雀の落とした羽を拾い集めて綺麗なものを
選んでひとつひとつ気持ちを込めて作った扇だ!」

そういえば数年前からそんなことを言って広大な庭にいる
孔雀の後を付いて回っていたが、
いまだそれが続いていたとは夢にも思わない。

「王さまでいるうちに完成して良かったよ。いや私は勤勉だからね? 
決めたことはやりとおすけどね?」

そうですね。

王さまを辞めると決めたこともどうやら
本当にやり遂げるつもりのようですし。

私は酷く痛みを覚える頭を抱えた。

「さあ、受け取ってくれ」

「私に?」

「そうだよ? 綺麗だろう?」

これを、私に?

私は驚いたけれど、受け取れなかった。

空いた時間で折った鶴とは違うのだ。

こんな気持ちを込められたものを頂いて、
私は毎日それを見て、どうしろというのだろう。


つづく
【2010/12/27 12:15 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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