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【2025/06/17 14:01 】 |
王さまをやめる日 5


王さまは嘘のない方だ。

私と初めてした約束の通り、王さまはとても自分に
誠実で正直で、偽りなどしたことがなかった。

緊張していた私が王さまに、怒って抗うようになったのは
それから1ヶ月もしないうちだった。

なにしろ王さまは、本当に自分に誠実なのだ。

鴨の刷り込みをして雛に自分の後ろを歩かせたい、と
言いだすと、孵化しそうな卵を持ってきて一日中それを
見つめて待っていた。

虫眼鏡で焚き火をしてみたい、と言いだせば、
美しい庭にいくつも焦げ跡を作って回った。

果てにはラクダに乗って砂漠を旅してみたい、と言いだし、
それは無理だと止めるのにどれほど労力を割いたか、
今は思い出したくはない。

思い出し背中をひんやりとしたものが伝い、思わずこぶしを
握りしめた私を、日課の政務に励む王さまが
不思議そうに首を傾げられた。

「どうかしたのか?」

「いいえっなんでも! それよりその書類はご昼食までに、
と伺っております! 出来ないとご昼食は抜きですよ!」

思い出した怒りの勢いのまま積まれた書類を指すと、
王さまはとてもつまらなさそうに顔を顰められる。

「ええーこんなに頑張っているのに! 私は王さまなのに、
どうして馬車馬のように働かなければならないんだ?」

「王さまだから一番働かなければならないんです」

「やっぱり王さまなんて辞めるべきだな」

確認するようにおっしゃられた王さまに、私はもう一度訊いてみた。

「王さま、どうしてそんなにお辞めになりたいんですか?」

「自由がないからさ」

この国で誰より自由にされているような気がするけれど、
あまりにもさらりと言われたせいで私は何も言い返せなかった。

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【2010/11/04 12:33 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 4

私が初めて王さまにお会いしたのは、
もう覚えていないくらい子供の頃のことだった。

私の母が、王さまの乳母だったのだ。

私には兄がいて、王さまと同い年の兄は王さまの
遊び相手として早くから王宮に住み、
私は時々母や兄に会いに王宮に来ていた。

そのときに、王さまと出会った。

王さまは私が行くと、いつも一緒に遊んでくれた。

時々会える王さまはいつも輝いて見え、
ずっと一緒に居られる兄がとても羨ましく思っていた。

兄はずっと王さまの傍にいて、お仕えするものだと
思っていたのだが、大人になったとき兄は商売を
始めると言って王宮を出て市内で暮らし始めた。

王さまの傍にいるのをやめるなんて、どうしてだろうと
私は考え込んだものだが、兄がやめたお陰で私が
今度はお傍に呼ばれたのだ。

それは私が13歳のとき。

王さまが20歳になられたときだった。


王さまのお父様がご病気で亡くなってしまわれた後、
王さまはとても早く王さまになられた。

まだ子供だったはずなのに、王さまは誰より王さまらしく、
戴冠式を離れた場所で見ていた私すら誇らしくなったものだ。

それからずっと王さまは誰より輝いていて、
そんな王さまにお仕え出来ると決まった日、
私はとても緊張してうまく話すことすら出来なかった。

まだ子供のままだった私に、王さまはとても優しく微笑んでくださった。

「私はお前の信頼を得るために、自分に誠実であろうと思う。
だからお前も私にずっと正直でいておくれ」

私は感激のあまり、泣いてしまった。

その言葉は、私の宝物であり、一生忘れないものになった。


つづく

【2010/11/02 12:34 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 3


驚いたことに、王さまの「王さまをやめる」ということは
瞬く間に王宮に広まり、それまで連日寄せられていた
縁談がぴたりと止んだ。

独身のままの王さまは、広い後宮に結局最後まで
誰ひとりの女性も入れないまま終わってしまうようだった。

本当なら、来月の生誕祝いの時に相手を決めて
欲しかったのが五老院の思惑だったのだろう。

王さまを補佐し、奉りごとを取り仕切る五老院の方々は、
その権力争いは熾烈なもので、今度は王さまが誰を後継者に
選ぶのか必死に選別していることだろう。

「王さま、次の王さまはどなたなんですか?」

王さまはお生まれになったときから複雑な状況に囲まれた方だった。

王さまがお生まれになったとき、おひとりではなかった。

双子のご兄弟でいらっしゃったのだ。

しかし後々、同年のご兄弟は諍いのもとになると周囲に言われ、
王さまのお父様は産まれたばかりの王さまの弟さまを
消してしまわれたのだ。

王さまのお父様はご高齢であったせいか、
王さま以外にお子様はいらっしゃらないままだった。

従姉の方々はいらっしゃるが、どなたも女性ですでに
ご成婚されている。

王さまはご結婚されていないので、嫡子もいないままだった。

確実なお血筋の方がいらっしゃらない以上、王さまの中に
誰かがいらっしゃるのだと思うのだが、私には想像できない。

王さまは決めてしまわれれば何を言っても無駄なので、
私は王さまが王さまをやめるとおっしゃったことに
反抗するのを諦めて、とりあえずまだ王さまは王さまなので、
いつもの生活をすることに決めた。

「やめる時に言うよ」

「それまで秘密なんですか? でもお血筋からいくとどなたも・・・」

「確かな人がいるよ」

王さまは自信満々に笑われる。

「きっと私なんかよりも、立派な王さまになるだろう」

王さまは誇らしげだった。

 

でも私には、頷くことは出来ず、かと言って何を言うことも
出来ず、ただ俯いて暗澹とする気持ちを抱えているしかなかった。


つづく
【2010/10/27 12:13 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 2


王さまは今29歳だ。

そして来月、盛大に30歳の生誕祝いを執り行う予定になっていた。
今からだともう1ヶ月もない。
王さまは私がお傍に上がってからいろいろと驚くことを
されてきたけれど、今日ほど驚いたことはない。
これを思うと3年前に「象を買ったぞ」といきなりそれに乗って
市中を回られたことや、2ヶ月前に後宮の庭園を園芸農地に
変えられたことなど、どうということもない気がした。

「さん・・・30歳っていうのは、ど、どうしてですか?! 
どうしてやめてしまわれるんですか?!」

王さまは初めてお会いしたときから王さまで、
きっと私が一生を終えるまで王さまなのだろうと思っていた。

誰かがやめろと言ったんだろうか?
いやしかし、王さまは誰かに言われたからといって頷くような方ではない。
何か嫌なことがあったんだろうか?
いやしかし、王さまは嫌なことは元々しない方だ。
私は真剣に考え込んだが、理由という理由が思い浮かばない。
しかし王さまは真面目な顔をした。
「王さまっていうのはね、毎日王さまなんだ。これが」
「・・・はい?」
「休みがないんだよ。つまり年中無休で王さまだ」
当然だった。
この国の王さまなのだから、王さまに休みがあるはずもないのだ。
いったい何を言い出すのかと思えば、私はこのところ多くなった
頭痛に顔を顰めながら、

「お言葉ですが王さま! 貴方が他の小姓をお寄せにならない
せいで、私も年中無休でお傍にお仕えしているんですが!」

私は王さまに仕えることが喜びなので、これといって苦痛なわけでは
ないのだが、こうも悩みが多いと本当に寝込んでしまいたくなってくる。

私の気持ちも知らずに、王さまはとても楽しそうに笑っておっしゃられた。
「だってお前に傍にいて欲しいんだよ」
こんなことを言うから、私は時々、本気で王さまを憎く思ってしまうのだ。



つづく

【2010/10/21 12:31 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 1

 


忌々しき噂を聞いた。
これが普通の人のことなら、何でもないと聞き流せただろう。
これが普通の王さまなら、そんな莫迦なと一蹴したろう。
でも私が仕える方は、こんなくだらない上に有り得ない噂でも
確かめなくてはならない方なのだ。
それが、私の王さまだ。
 
「王さま!」
執務室へ入ると、大人しく仕事をしていると思っていた王さまの
手元には沢山の折鶴が並べてあった。
きっと、どれが一番綺麗か考えていたのだろう。
一瞬目を細めるが、今はそんなことも些細な問題だ。
「王さま、40歳で王さまをやめるというのは本当ですか?!」
「どうして40歳なんだ?」
質問したのは私なのに、王さまは不思議そうに首を傾げた。
「私が訊きたいですよ!」
「まぁまぁあまり怒るな。ほらこれをあげよう。一番綺麗に折れた」
ひとつ手渡されると、私はとりあえず受け取ってしまう。
王さまから頂けるものは、何であれ嬉しくないはずはない。
しかしこんなことでは誤魔化されない。
「噂とは不思議なものだなぁ。どうして40歳なんだろう?」
呑気に言う王さまに、私はいくらか安心して、
「ただの噂なんですね?」
確認したかったのに、王さまはいつもの笑顔でおっしゃられたのだ。
「30歳でやめると言ったんだよ、私は」
私は今ここで、耳を落としてしまいたいというほど驚いた。


つづく。
【2010/10/18 12:38 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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