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【2025/08/16 10:05 】 |
王さまをやめる日 5


王さまは嘘のない方だ。

私と初めてした約束の通り、王さまはとても自分に
誠実で正直で、偽りなどしたことがなかった。

緊張していた私が王さまに、怒って抗うようになったのは
それから1ヶ月もしないうちだった。

なにしろ王さまは、本当に自分に誠実なのだ。

鴨の刷り込みをして雛に自分の後ろを歩かせたい、と
言いだすと、孵化しそうな卵を持ってきて一日中それを
見つめて待っていた。

虫眼鏡で焚き火をしてみたい、と言いだせば、
美しい庭にいくつも焦げ跡を作って回った。

果てにはラクダに乗って砂漠を旅してみたい、と言いだし、
それは無理だと止めるのにどれほど労力を割いたか、
今は思い出したくはない。

思い出し背中をひんやりとしたものが伝い、思わずこぶしを
握りしめた私を、日課の政務に励む王さまが
不思議そうに首を傾げられた。

「どうかしたのか?」

「いいえっなんでも! それよりその書類はご昼食までに、
と伺っております! 出来ないとご昼食は抜きですよ!」

思い出した怒りの勢いのまま積まれた書類を指すと、
王さまはとてもつまらなさそうに顔を顰められる。

「ええーこんなに頑張っているのに! 私は王さまなのに、
どうして馬車馬のように働かなければならないんだ?」

「王さまだから一番働かなければならないんです」

「やっぱり王さまなんて辞めるべきだな」

確認するようにおっしゃられた王さまに、私はもう一度訊いてみた。

「王さま、どうしてそんなにお辞めになりたいんですか?」

「自由がないからさ」

この国で誰より自由にされているような気がするけれど、
あまりにもさらりと言われたせいで私は何も言い返せなかった。

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【2010/11/04 12:33 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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