「落ちたよ、これ」
「・・・・すみません」
全生徒が行き交う渡り廊下で、その場面を見て思わず
足を止めた。
教科書なんかを抱えていた一年生から落ちたペンを、
二年生が拾ってあげたところだった。
受け取った一年生は、相手の顔をまっすぐ見ることはなく
慌てた様子と戸惑った様子が混ざって、さらに申し訳なさそうで
結果無愛想な顔になって謝罪しただけだった。
拾ってあげた二年生としては、それが嬉しいと思うことなどない
のも当たり前で、それでも肩を竦めてもう関係ないとばかりに
そこを去った。
一年生はその後ろ姿を見てもう一度頭を下げて、背中を丸める
ようにしてその場を動いた。
「残念だよなぁ」
ぽつりと言ったのは、航太郎の隣でそれを見ていたクラスメイトだ。
「なにが」
「あれ。あの長谷川。今年の新入生の中じゃピカイチくらいの
綺麗な顔でさ、みんな色めき立ったけど、でもあの性格じゃ・・・」
明るくない。
社交的でもない。
無愛想だ。
それが入学して1ヶ月もたたない間に広まった長谷川深津という
生徒の評判だった。
「にっこり笑ってやりゃ、誰でも嬉しくなるしなんでもしてやるのにさ」
なんであんなに暗いんだろ。
人気者になれるはずなのに、反対の意味で知れ渡ってしまっていた。
「いつも一緒にいる男、誰だっけ? あいつとしか笑わないじゃん。
出来てんじゃねぇのって噂だけど」
「それはない」
航太郎の否定は、相手が興味を引くほど強かった。
「なんで知ってんの?」
「・・・なんでもいいだろ」
航太郎は誤魔化すためにその場を速足で逃げた。
不器用なだけなんだ。
航太郎は俯いた顔が、どんな表情をしているかすぐに分かった。
無愛想なんじゃない。
戸惑っているだけなんだ。
笑いたいのに、笑うことができない。
それがあの子だ。
深津が全開で笑うところを見たら、いったいどれだけの人が
驚き、そして落ちてしまうだろう。
航太郎は指先を擦り合わせている自分に気付いた。
それは一度だけ、深津の髪に触れたことがある場所だった。
あの柔らかさを、きっと一生忘れることなど出来ないだろう。
航太郎はそっと、深津の消えたほうを振り返った。
*****
いきなり始めてみました!
「ウツムキスマイル」
つまり――ニヤケ顔っつーことですよ。
ニヤケ顔になってたまらん。
て小話を書こうと思ったのに、なぜかいきなり高校生編。
の航太郎×深津シリーズです。
この時代は私の高校時と同じ時代の設定です。
携帯はありません。かろうじて、ポケベルかな。
ポ~ケ~ベ~ルが鳴らなくて~て歌はもう今の子は
知らないんだろうなぁ・・・
まぁ今、私もポケベルを打てと言われたら無理ですけど。
あの頃、数秒でどんだけ打ってるの、と今思えば、
女子高生は神業を使ってましたね。
(私にも女子高生時代はあったんですよ)
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