「今日お店に来ないと損しますよ」
というメールを深津の助手からもらったのはその日の午前中だった。
何があるんだ、と訝しみつつも仕事を終えて深津の店に行くと、
「いらっしゃいませ・・・え?!」
にこやかに迎えてくれたのは深津だった。
航太郎に気づいて驚いて、慌てた様子になったが深津だった。
たとえ黒いスラックスにおそろいのベスト、リボンタイであっても――
頭に真っ白なウサギ耳がついていようとも。
深津だった。
朝、出かけたときはこんな格好じゃなかったはずだ。
航太郎は確かめるように深津を眺めると、深津はうろたえて
逃げるようにスタッフルームに入ってしまった。
「あー、お仕事終わられたんですかー」
ご苦労さまですー、と声をかけてきたのは助手の海だ。
こちらは短いスカートにひざ上までボーダーのソックスを穿いていた。
さらに頭にはネコ耳だ。
「・・・これは・・・なんなんだ?」
航太郎としては、とりあえず意味を訊いてみるしかない。
「今日はイベントデーになっててー、アリスの格好をしようってことになってー」
アリス?
不思議の国のアリスだ、と気付いたのは一瞬後だった。
なるほど、海はチシャ猫で、深津は時計ウサギというわけだ。
しかし、肝心のアリスがいない。
「アリスは、お客さんになってもらうんですよー」
あと、ハートの女王と選べます、と航太郎の心を読んだように海が答えた。
「それで――写真なんか、撮ってないだろうな?」
航太郎としては、まず確かめたいところだった。
一瞬見ただけでも、深津の姿は正直誰にも見せたくないと思ったからだ。
海は航太郎の視線から外れるように、
「えーっと、お客さんは撮影不可にしてますけどー」
「・・・客じゃない誰が撮ったって?!」
「朝一で見にこられた奥先生が」
あの人は、と航太郎は隠すことなく舌打ちをする。
「そもそも、イベントデーってなんだ?」
そんなもの、店にはなかったと航太郎は首を傾げる。
「REGでやってるイベントなんですけど、一緒にすることに
なったみたいで」
「REG」とは、深津の師である奥の店だ。
あの店そんなことやっていたか? と航太郎は首を傾げ、
さらにどうして支店でもない店にやらせるんだ、と面白くな気持ちになる。
おそらく、楽しそうだから、という奥独断の理由だろう、というのも察して
さらに憮然とする。
そのまま足をスタッフルームに向けた。
入口はひとつだ。深津はそこから出てくる気配はない。
航太郎は海にしばらく外すことを言って、その扉に入る。
「深津」
「・・・な、なんで来るんですか、今日!」
「なんでって・・・見に来いって言われたから。海ちゃんに」
「うー・・・っ」
深津は左右に棚のある狭い場所で、航太郎に背を向けて海への
悪態を吐いている。
背を向けても、長い耳はよく見える。
「深津、ちゃんと見せて」
「や、です」
「なんで」
「なんでって・・・こんな格好、おかしいし」
「全然おかしくない。むしろ、おかしくなくて困る」
「・・・はい?」
「そんな恰好、他の誰かに見せたくないくらい可愛い」
「・・・・・・」
素直な気持ちを言った航太郎に、深津は無言のままゆっくり振り返り、
困った顔を向けた。
「か、わいいとか、そうゆうの、おかしいですから」
僕もう、子供じゃないのに。
深津がそう言っても、航太郎には可愛いものは可愛い。
「そうか? なぁ深津、よく見せて」
「こ、航さん・・・っ」
奥に居る深津に近づいて、その表情を見ようと顔を寄せる。
それでも恥ずかしそうに俯く深津の顎を取って、人間の耳から
ウサギの耳を確かめるように髪を撫でた。
「こんなに可愛いウサギ、ほんと捕まえたくなるな」
「はい?」
「家に帰っても、また付けて見せて」
「えっ?!」
無理です、と勢いよく首を振る深津に、航太郎は微笑んで頼んだ。
「こんな場所じゃ、満足出来ない。なぁ深津・・・しっぽはないんだ?」
ないです、駄目です、満足ってなんですか。
そう反論したいのに口だけを動かす深津に、航太郎は無理やり約束
させるように顔を寄せた。
「な・・・楽しみにしてるから」
「航さん・・・っ」
無理、と言いそうな唇を塞いで、航太郎は夜を楽しみに待つことにした。
顔をほてらせた深津がスタッフルームを出て、仕事を終えるまで
航太郎はちゃんと見張っていようと待っていた。
海が相変わらずですねぇ、とからかうことも、航太郎は気にならなかった。
*****
なんか勢いで・・・書いちまいました!
未来さんとこに、お礼SSを送った勢いで。
甘い二人が書きたくなって・・・!!
いやしかし、試験まで一ヶ月を切りました。
勉強します。
ほんとに、しばらく勉強漬けになります。
やらなきゃ!
やるぜ!
でも勉強しなきゃいけない時にかぎって本読んだり
小説書いたりしたくなるのはどうしてじゃろうなー
子供のころからじゃけん。
これって人間の習性?
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