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【2025/06/18 00:54 】 |
美しい女


美しい女だった。

美沙子は自分が美しいことをよく知っていた。

美しさゆえ見られることも慣れているし、褒め称えられることも慣れている。

美沙子にとって美しくあるということは生きるということだった。

美しくあれば誰より自由で、そして優雅に生きられた。


ホテルの二階にあるカフェに座っていた美沙子は、
その端から吹き抜けの一階ロビーに視線を落としていた。

様々な人間が出入りしている場所で、人目を引いている人間を見つけた。

着ているものはどこにでもあるようなグレイのスーツだ。

背は日本人の標準よりは高いが、どこにでもいるような男に見えた。

しかし見られていた。

見られている本人は、慣れているのかそれに気付いていないのか――
おそらく後者だと美沙子は思った。

普通の男であるはずなのに、注目を浴びているのはその美しさゆえだった。

確かに男にしか見えないはずなのに、同性でも息を飲むほど美しい。

慣れなければ見とれてしまうこともあるだろう。

待ち合わせをしているのか、男は何度か時計を確認して
出入り口のドアをただじっと見つめていた。

そのうちに、男は美しい顔を歪めるように表情を変えた。

喜んでいるのか、悲しんでいるのか、判断出来かねる顔だ。

自分で自分の気持ちがまとまっていないからそんな顔になるのだと、
美沙子は知っていた。

待ち合わせの相手が目の前に立ち、男は元通りの美しい顔に戻った。

しかし戻ったように見せているだけで、内心は不安と喜び、
そして戸惑いに揺れているのだろう。

待ち合わせていた相手はさらに背の高い男で、まだ若いようだ。

態度は落ち着いているものの、選んでいる服装もカジュアルなもので、
しかしそれがよく似合っていた。

おそらく、美しい男よりも自分に似合うものを知っているのだろう。

「馬鹿な子」

美沙子は細い指先に細いシガーを挟み、ゆっくりと紫煙を吐き出した。

呟いた声は艶の良い唇から零れる煙に混ざり、
聞き止めるものは誰もいなかっただろう。


美沙子は自分が美しいことを自慢して生きているわけではない。

ただ美しくあることを、隠すこともしなかっただけだ。

高いヒールに包まれた足先から、後ろでまとめ右肩にゆるく
流れる髪先、綺麗に整えられた指先まで、美沙子は全てが美しい。

光沢のあるワンピースは膝下までの長さがあったが、
脇のスリットは腰まで入っていた。

美沙子が優雅に足を組むと、どきりとしながらも思わず見てしまうほどだった。

肌は瑞々しく、黒子のひとつもその身体にはないように見えた。

若く見えるが、20代には見えない。

かといってそれ以上年を取っているようにも見えない。

年齢不詳の美しい女が、美沙子なのだ。

美沙子が出産経験があると言っても、やはり誰も信じないだろう。


せっかく美しく産んであげたのに、やっぱり不器用にしか生きられないの。


美沙子はロビーを見下ろし、美しく成長した男をただ見ていた。

子供を産んだとき、美沙子は子供が自分と同じようには
生きられないだろうと直感した。

不器用な父親のせいかもしれない。

不器用さゆえ、たった一度のセックスだったけれど、
美沙子は妊娠することをどこかで確信していた。

だから子供に、その人生そのものを予測して名前を付けた。

どうやら美沙子の予想は外れることなく、せっかくの美しさを
手にしながら不器用に生きているようだった。


「美沙子さん、お待たせ――何を見ているの?」

若い男が、上品なスーツに身を包み美沙子のテーブルに寄り、
その視線を一緒に追った。

「ああ、ロビーで僕も見たよ。とても綺麗な男性がいたんだ。
どこか――美沙子さんに似ていたような気がする」

「息子よ」

美しい唇からはっきり答えた美沙子に、相手はとても楽しいことを
聞いたというように笑った。

「面白い冗談だね。さぁ、そろそろ時間だよ」

上流階級に育ち、上等な男になるだろう相手は、しかし若かった。

美沙子があと何年かで半世紀生きているという事実も、
おそらく気付いていないだろう。

「馬鹿な子」

灰皿にシガーを押し付け、最後の紫煙を吐き出しながら呟いた言葉を、
今度は聞き取れなかったのか相手は首を傾げた。

美沙子はもう一度答える代わりに、手を取るように差し出し艶然と笑った。

それだけで相手は満足していた。


馬鹿な子。やっぱりそんな人生を歩むことになって。
精々その名前の通りに生きることね。


美沙子はそこで、初めて気付いたと何度か瞬いた。

それまで予想していたことを間違っているとは思わなかったが、
初めて違うことを思ったのだ。


それとも、そんな名前を付けたからそんな人生なのかしら――?

 



 

美しく散ることが、その総て

 

華開くときよりも、散るときが美しくあればいい

お前の名前の通りに――ミチル



*******


ええと。誰のお母さんか解かったでしょうかー?
これは連載直後くらいから考えてた小話です。
ようやく吐き出した感じだ。

日々いろんなことが起こります。
東の国から帰った私は、それに振り回されて
あっというまに時間が過ぎる。
あー時間を止めて~とか言いながら車で
かかってるのは笹川美和の「止めないで」

おうちのリビングにとうとうストーブが出ました。
エアコンよりましですが、暑すぎるのがどうも嫌。
あの温国で、どうしてうちの家族は平気で暮らすのかなー
自分の部屋にヒーターを入れようかどうしようか
悩み中なのでした。
愛用のちゃんちゃんこでまだ行ける気がする・・・つか
大丈夫だ。
ちゃんちゃんこは暖かいですよ!
(綿入れ推奨委員会代表)

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【2010/11/29 12:24 】 | SS | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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