不思議な女だった。
目の前に現れて、当然のように隣のスツールに座る女は
レーコと名乗った。
身体のラインを強調するというより、美しく見せるワンピースと
袖には通さず薄いカーディガンを肩に羽織っていて、
その細さがより強調されていた。
真っ黒な髪が両肩から前に流れ落ちていて、大きな黒眼の目が
じっと意味ありげに見つめてくる。
魅力的ではあるが、どこかひっかかるものを繕は感じ取っていた。
最初は、どこかからかうような視線で隣に座ったのだ。
それから何度か確認するように繕を見て、話しているうちに
瞬きが回数を重ねるうちに、その意味が変わっていくのを感じた。
不思議そうなものになり、それから熱を帯びたものになり、
最後にどこか拗ねたような微かな怒りを感じる。
気をつけているつもりでも、時折その唇がつんと尖る。
それは食べてと強請っているようにも見えて、繕はレーコの
意味を考えながら、考えていても仕方がないと口を開いた。
「どうした?」
「ひどいわ」
繕が訊いたことで、レーコは不機嫌なことを隠さず素直に
落胆したように目を伏せた。
伏せた目元も綺麗だった。
思わず伸びそうになる手を押えて、繕は理由を訊く。
「何が」
「こんな素敵なひとだなんて、聞いてないわ」
「・・・誰が」
やはり何か目的があって繕に近づいたのだとは分かっても
その目的が分からない。
「貴方がよ。とっても悪い男だから、からかって遊んでやってって、
頼まれたのよ」
「・・・誰に」
「春則くんよ」
繕は深く息を吐いて、今はどこかでこの状況を思いながら
笑っているだろう男を思い浮かべて内心舌打ちをした。
しかし改めてレーコを見ると、いい女にしか見えない。
繕はそれなら、とすぐに気持ちを切り替えた。
「春則は、どうだった?」
覗き込むように見つめると、レーコはにっこりと笑った。
「素敵だったわよ」
「俺よりもか」
レーコはまっすぐに繕を見つめて、煌めいた目を瞬かせた。
「選べないわ」
「そうか?」
繕は留まっていた手を、今度は止めることなくその顔に近づけた。
右側の髪を顔に沿ってかき上げ、耳に掛けた。
想像した通り、顎のラインが綺麗だった。
白い耳たぶは柔らかく、何も付いていないことが指触りも良い。
繕のされるままになっているレーコは、指が首筋を撫でるように
すると色が見えるような吐息を吐く。
「本当に?」
レーコの返事を待たず、繕はそこに顔を寄せた。
「つまり俺は――誘っていいんだな?」
耳に直接声をかけると、レーコは擽ったそうに目を細め、少し肩を寄せる。
しかし間近にある繕の目を見つめて、
「誘ってくれるの?」
「誘わない理由はない」
「春則くんは、我慢してたのよ」
最初は、とレーコは何かを思い出したのか笑った。
繕は少し呆れた顔をしたが、すぐに口端を上げる。
「なんだ。じゃあ、俺も我慢すれば良かったかな」
レーコが誘ってくれるなら、と含ませると、レーコは笑った。
「私、貴方には誘惑されたいわ」
まるで誘っているように、妖艶な笑みだった。
繕はその腰に手を伸ばし、柔らかさを確かめて引き寄せた。
「本気にさせるなよ」
繕の腕におとなしく納まりながら、レーコは面白そうに笑った。
「貴方も春則くんも、ひどいひとね」
「ひどい男は嫌いか」
レーコは答えず、ただ微笑んだ。
据膳食わぬは――って言うだろ
繕は悪戯をしかけた男を思い出しながら、そのまま乗って
やることにした。
この結果を教えてやるときを、また覚えていろと色悪に
笑った笑みはレーコには見えなかった。
*****
うーん、やっぱりこの人たちはセットで書かなきゃな、と。
つーかこのレーコ。
すんげーいい女だと思うんだけど・・・譲二はどっから
こんな女と知り合いになるんだ、と(笑
旭陽くん、今度はむきゅーっとなってください。
和めない? テンション上げていこうぜ!
PR