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駅でミチルと別れ、ほどよい酔いを持ったまま柘植は真っ直ぐに家に帰った。
自分で鍵を回してドアを開けると、その音に気付いたのか部屋からまだ幼いような少年が出てくる。 「お帰りなさい。早かったね」 出迎えながらも、少し緊張しているように一定の距離を保つのは、今まで一緒に住んでいても変わらない。 同じ朝を迎えても、夜帰る頃にはまたリセットされているようだ。 初々しいと言えばそうかもしれないが、まだ完全に手懐けられていないと思うと、柘植はまだ気が抜けなかった。 「ただいま」 柘植はその一言で距離の一歩を埋め、すっぽりと腕に納まってしまうウヅキを抱きしめる。 「な、ナナ、さん・・・っ?!」 驚いたように固まった身体が、強い抱擁から逃れるように腕の中でもがく。 それを柘植が許すはずはなく、もっと絡ませて密着させた。 細い身体を確かめるように手で撫で回し、柔らかい場所はついでのように確かめて揉んで、しっかり満足してからウヅキを解放した。 最後にその額にキスを残すのも忘れない。 ウヅキは支えを失うとそのまま床にへたり込む。 真っ赤な顔で柘植を睨んでくるのを、嬉しそうに受け止めた。 「ナナさん・・・っ」 「なんだ? 運んでほしいのか?」 「・・・ばかっ」 軽く握った手が向けられて、ようやく柘植はウヅキとの距離を埋められたと安堵して受け止めるのだ。 言った通り、軽い身体を子供のように抱き上げてリビングまで運ぶ。 その間さらに恥ずかしそうにもごもごと文句を告げるウヅキの声は気にしない。 リビングのテーブルで、勉強していた痕跡の前に座らせて、柘植は水を飲むためキッチンに回りグラスに水を入れる。 「今日、飲んでくるって言ったのに、早かったね」 水を飲み干して、柘植は時間を確かめる。 確かに、会社の飲み会や接待などでは午前様になることもある。 それを考えれば、とても早かった。 「ああ。ミチルと飲んでたからな」 もともと、お互いつぶれるほどの深酒はしない。 さらにあまり遅くなると、ミチルの新しいストーカーのごとき男が迎えに現れそうだ。 柘植はそんな想像が簡単にできて笑った。 ミチルも大変なものに捕まったものだ。 ストーカーに惚れられるという苦労を、正確に理解しているとは言い難いのだが、周囲に流されるようでいて、実のところミチルは頑固だ。 自分が嫌だと思うことは、本能的に避ける。 だからあの男と一緒にいることが、ミチルにとっては良いことだと解る。 ストーカーに頑固者だ。これからもいろいろあるだろうが、案外うまくまとまるのだろう。 まとまりたいと思う意思がある。だから相反する相手と一緒になれるのだ。 柘植は嫌いで別れたわけではない相手の未来に笑って一息ついて、改めてリビングを見て驚いた。 「・・・っどうした?!」 テーブルに向かったまま、ウヅキは静かに泣いていたのだ。 柘植が傍に来て慌てて、泣いたことにびっくりしたようにウヅキも目を瞬かせる。 「あ・・・べ、別に、なんでも、ないよ」 「何でもなく泣くのかお前は。俺の心臓を何でもなく止めるな」 柘植は強く、流れる涙の痕を拭う。 本当に困る。 柘植の呼吸は、ウヅキの涙ひとつで本当に止まるのだ。 苦しくて溜まらない。 傍にいて、笑っていても、次の瞬間にも同じとは限らないと不安になって、常に心配になる。 こんなに心を乱されるのは初めてだった。 ミチルとの付き合いを、偽りだった言うことはないが、この新しい想いのほうが、苦しくてどうしようもなくなる。 新しく生まれた恋に、恐らくずっと柘植は振り回されることだろう。 それでも柘植は、ウヅキを手放すことなど出来ないのだ。 もし気持ちが落ち着いて、穏やかな時間を過ごす未来があったとしても、それを作るのは柘植だ。 この、未だに気を抜くと大人の男を戸惑わせて慌てさせるウヅキの、この先の気持ちを作るのは自分だと、傲慢にも思われるような感情を、柘植は他の誰にも譲るつもりはない。 つづく PR |
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