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ミチルが家に着くと、窓から明かりが漏れていた。
腕時計を確かめて、今日は早番だったかと気付く。 基本定時から定時のサラリーマンのミチルと違い、同じ家に住みついた男はシフト制で不規則だった。 そのシフトも、ある程度決まっているようなのだが、ミチルには覚えられない。 玄関を入ると、キッチンの方から香ばしい香りがした。 寄ってきた居酒屋で香ったような、アルコールを誘う香りだ。 キッチンを覗くと、出来上がった料理と缶ビールをテーブルに置くレキフミがいた。 「お帰りなさい、ミチルさん。早かったですね」 飲んで帰るとメールした内容は確認したのだろう。 遅くなると思い、自分も飲もうとしたのかもしれない。 「ああ。ちょっと飲んだだけだから」 ネクタイを解いてジャケットを脱ぐと、すぐに長い手が伸びてそれらを取られる。 別に世話を焼いてもらうような歳でもないのだが、なぜかレキフミはミチルのことに関してすべてに関わろうとする。 もしかして、これがストーカーというものか。 ミチルは今日初めて知った存在にふと目を細めた。 「どうしたんですか?」 突然笑ったミチルと訝しく思ったのか、レキフミがジャケットを皺にならないようにとりあえずソファに畳み戻ってくる。 決して低いわけではないミチルより背の高い男を見上げ、ミチルは改めて感じた。 「いや、ストーカーってこういうものなんだなと思っただけだ」 「・・・は?」 太い縁のある眼鏡の奥の目は、いつもまっすぐにミチルを見ている。その視線にも、そろそろ慣れた。 今は珍しく驚いたような目をしているのが面白くて、ミチルは笑った。 「ストーカーなんて、俺には関係ないと思っていたんだが、君がそういうものらしいって今日聞いたから」 「・・・誰にですか」 レキフミの声が低くなった。 ミチルは気付いたが、少し酔いが回っているのかあまり気にしないまま答える。 「柘植だよ。今日たまたま、会ったから」 だから飲んで帰ったのだ。 「あの人と? 飲んだんですか? 二人きりで?」 質問攻めの勢いのまま、腕を強く掴まれる。 ミチルはいったいどうしたんだと見上げた。 「居酒屋だから二人きりというわけじゃないが・・・ほかに知り合いはいなかったな」 「ミチルさん、俺にケンカを売っているんですね?」 何を莫迦なことを、と呆れたが、レキフミの目は真剣だった。 「突然なんだ・・・」 「突然? そりゃ突然でしょうね。ミチルさんはいつも突然俺を怒らせるんですから」 今、いったいどこでレキフミを怒らせたのか、ミチルには解らない。 しかし、この重いほどの気持ちを押し付けられるのは、レキフミに出会ってから常にあるものだった。 だから少し、慣れたようにも思う。 だから少し、冷静に見つめられるようになった。 始めはこの視線が怖かった。 初めて恐怖を感じるほど、気持ちを押し付けられたのだ。 そして苦しいほど、縛られた。 ミチルのことで、本当にレキフミが知らないことはないのかもしれないと思うほどだ。 しかし、その恐怖を、ミチルは今普通に受け止めた。 受け止めることができた。 「そうか・・・俺は、それが欲しかったんだな」 つづく PR |
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