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【2025/06/17 19:50 】 |
我慢


視線が外せなくなった。

譲二の連れてきた女で、その譲二は紹介だけすると
どこかへ消えた。
春則は膝が触れそうな距離に座る女に、全てを集中させる
ほど向いていた。
女はレーコと言った。
譲二が名前を間違えることはないから、レイコではなくレーコ
なのだろう。
レーコは黒いワンピースを着て、黒い髪を左右の肩から胸へと
流していた。
輝かしいアクセサリーは何も付けていない。
細い腕に蜘蛛の糸のような細いブレスが絡まっているだけだ。
それが店内の間接照明に時折映って、光る。
唇は穏やかに笑んでいて、黒眼の大きな目が微笑んで春則を
見つめている。
ワンピースはノースリーブで、大きく開いているわけではない。
裾も膝が隠れるほどだ。
ただ、開いた胸元と、長く伸びる手、スカートのスリットから覗く
足が、どうしようもなく色気を醸し出していた。
それだけで、レーコは美しかった。
春則は適当な言葉を連ねて、レーコとの会話を楽しみながら
手がその細い腰に伸びるのを堪えていた。
なにかきっかけさえあれば、その美しい曲線を描く胸に
顔を埋めてしまいたいと思っていた。
しかし、春則は決して肌を触れさせることはなく、ただレーコを
見て楽しんでいた。
そのうちに、レーコが笑みを深くした。
「どうして?」
「なにが?」
「どうして、誘ってくれないの?」
レーコも春則を気に入ったようだった。
それは会話や、視線を見ればわかる。
春則が望めば、レーコはその手を取ってくれる。
春則の視線はそれを願っている。
しかし口にすることはない。
それをレーコが不思議に感じたのだ。
春則は面白くて仕方がないというように笑った。
「誘いたいよ。すっげ、誘いたい。抱き締めたい」
「そうなの?」
「そうだよ。でも、我慢してる」
そう、春則は我慢しているのだ。
「我慢してる自分が、面白くなってきたとこ」
どこまで我慢できるのか――それが、今楽しくて
仕方がない。
「なぜ?」
我慢しなければならないのか。
レーコが疑問に思うのも無理はない。
しかし、春則は笑うだけだ。
「なんでかな? でも、楽しくなっちゃってさ」
「そうなの」
困った子ね、とまるで小さな子を思うようにレーコが笑う。
春則はその返事に気を良くして、さらに甘えることにした。
「なぁ、俺を誘って? どこまで俺が我慢できるか、試して」
レーコは本当に駄目な子ね、と笑った。
「私が本気になっても、知らないわよ」
望むところだ。

こんなところをあいつが見たら、どうなるのか――

春則はそんな思いがよぎったが、レーコの手が
自分に伸びてきて打ち消された。
そして、我慢出来なくなったら、今度は春則がレーコを
紹介してやろう、とここにはいない男を思った。



****


先日より、なんか頭の中を回ってるシーンでした。
はー吐き出せてすっきり。
旭陽くん、和んでおくれ!

 

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【2011/03/24 12:53 】 | SS | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
What is this?

「はぁ? ヒヨコに似てるって言われた? 誰に」
来客のチャイムを受けて玄関の鍵を開けると、春則は誰かと
携帯で話しながら中へ入ってきた。
シャワーを浴びたばかりだった繕はタオルで頭を拭きながら
気にしないで部屋へ戻る。
後から入った春則が鍵を閉めてくるだろう。
遠慮もなく声のトーンも落とさず話すので、繕の耳にも話しが
聴こえる。
気にしない相手なのだろう。
「ああ――まぁ確かに、ピヨピヨ言ってるっつーかその誰かの
言いたいことは解かるよ。え? 怒るなよ、本当のことだろ」
繕は笑っている春則に、その相手を何となく想像できた。
おそらく――成人しているくせに可愛いだけの生き物だと
春則の言葉がその通りだと思うキナだ。
「んで誰に言われたって? 弁護士さん?」
春則の声がおもしろがっているのが解かる。
ほぼ水分を取った髪の毛にもういいだろう、と繕はタオルを取って
髪を手で後へ流す。
春則の視線が一度繕へ向いて、ドライヤーは、と言っているのが
見えたが、面倒くさいので放っておいた。
「は? 超箱入りのお嬢さん?」
考えるような春則は、少し間を置いて眉根を寄せた。
「・・・いや、そのお嬢さんとお前の接点がまったく見えねーと思って。
まぁいいや。今度紹介しろよ。え? そのお嬢さんをだよ・・・なんだよ
取って食ったりしねぇよ」
信用ならない。
春則の顔を見れば誰もがそう言うだろう。
付き合いの長いキナも声だけで解かったはずだ。
そのうちに、春則は笑いながら通話を切った。
「――んで、気になってたんだけど、それなに?」
電話を終えた春則が、指差したのはリビングに置いてあった
ダンボールだ。
仕事関係の書類が広がっているのはいつものことでも、
箱なんて見たことがないのだろう。
「チョコレート」
繕が冷蔵庫からよく冷やしたワインを取り出しながら答えると、
春則は驚いてその中をそっと覗いてみていた。
確認したって言った通りのものしか入っていない。
「・・・これ、あんたの戦利品?」
「そんなわけあるか」
ひとりで貰うにしては、量が多すぎる。
ダンボールはゆうに子供が入れるほどの大きさだった。
「俺のもあるが、同僚や知り合いからのが入っている」
「なんで?」
春則の疑問も最もだろう。
「叔父がいるのは前に言っただろう。その叔父に送る」
「なんで?」
子供みたいに同じことを繰り返すのはどうなんだ、と繕は
思いながらも素直に教えてやる。
「叔父は施設で働いてるんだ。お菓子を送ると喜ぶから、
ついでに俺も貰ったものの処分に困らずに済むから
毎年送っている・・・なんだ」
今の説明に何もおかしなところなどなかったと思うが、
春則はさっきよりも驚いて、そして理解できないと顔を顰めた。
どんな反応だ、それは。
繕もそれに意味が解からず目を顰めると、春則は思考を
止めたように表情も困惑させた。
「いや・・・今あんたが、そこにいるのを想像して・・・ぜんっぜん、
似あってねぇ、と思って。まぁ叔父さんだもんな、あんたと
血は繋がってても一緒の人間じゃねぇよな。うん。いや、あんた
らしいよ、そういう慈善行為――」
「叔父は俺と5つしか離れていない。第三者に言わせると、
兄弟のように似ているらしい」
春則の声を遮って告げる。
誤解される前に正確な情報を教えてやったのに、春則はさらに
驚いたままで、凍ったように止まった。
それから額を押させて唸っていたが、数秒して気持ちを切り替えたのか
考えないことにしたのか、繕の手に視線を向ける。
「それ、なんだ」
「ワイン」
「そりゃ見りゃわかる。なんでそれなんだって聞いてんだよ」
日本全国的に、甘いものが飛び交う日、春則に飲むから付き合えと
言って部屋に呼び出したのだ。
今更、改まって何かを渡そうとも思わないが、こんな日に会おうと
言われれば吝かではないはずだ。
「よく知らないが、ひとつだけは自分で食べろと言われたんだ。
せっかくだからお前も付き合え」
「なに、俺は酒じゃなくチョコを食いにここまで来たわけ? しかも
自分のじゃないチョコを?」
「お前宛てでもあるらしいから黙って食え」
「誰だよ?」
相手は、と言い募る春則に繕はワインをグラスへ注ぎながら
その箱を指す。
「・・・ああ」
「知ってるのか」
何か納得した春則に、グラスをひとつ渡す。
「直接は知らないが、誰かがお世話になってる人だろ」
「・・・曖昧な言い方だな」
「まぁいいじゃん。この人のチョイスは悪くない」
春則がそう言うのならその通りなのだろう。
繕はあまり気にしなかったが、オレンジ色の箱から小さく
飾られたチョコレートをひとつ摘んで口に入れた。
それからすぐにワインを傾ける。
「あんた、それじゃチョコの味わかんねぇじゃん」
笑う春則に、繕は忘れずに伝えることにした。
「お返しを考えておけよ」
「誰が?」
「お前が」
「ひとりで?」
「俺をあてにするな」
「それ、偉そうに言うことじゃないから」
いつものように言葉を交わしながら、この分なら春則に
任せてしまってもいいだろう、と繕は勝手に予測していた。
こうして、今年も甘い日が過ぎて行った。


***


透子さんへ。
チョコレートありがとうございました!
お礼にもなりませんが、ひとつ!
ちなみに、くれると言った旭陽くんはくれませんでした。
自分で買ったチョコを自分で食べて太るがいい。


勉強をしていると、部屋の掃除をしたくなるとか本を読みたくなるとか
いろいろありますよね。
それって年齢関係ないと思うんです。
私も同じく。
勉強をしていると――なぜか書き物がしたくなって!
そのうちに、ブログで更新する短編が出来上がりそうです。
また待っててやってください。
(勉強しろよ、と自分でも思いますが、それはそれ)

【2011/02/15 16:17 】 | SS | 有り難いご意見(2) | トラックバック()
膝の上と鬱痕


指定を受けたバーは間接照明が多く、過ごしやすい明るさだと思えた。
カウンターは一番目立つ、と教えられた通り、繕はフロアの端の席を選ぶ。
一段下がった場所にしつらえたコーナーの場所からは、フロアがよく見えた。
しかし薄暗さと低いせいで、周りからは見えにくい場所だろう。
4人は座れるL字のソファにひとりで寛ぎ、ウェイターに飲み物を頼む。
それからもう一度フロアを見渡した。
真ん中にカウンターが突き出している形になっていて、なるほど
一番目立っていた。
さらに今は団体なのか大勢の男女がそれを囲んでいる。
店の雰囲気から騒がしいほどではないが、賑やかだった。
その喧噪も自分には関係ないだろう、と繕は運ばれてきたグラスを
傾け、ゆっくり時間を潰すことにした。
繕の前に影を作るように人が立ったのは、その時だ。
一段上のフロアから見下ろすのは知った顔だった。
知り合いの知り合いという程度で、どこかですれ違っても
繕から声をかけることはない。
しかし相手は違う。
愛想良く幼いままの顔でにっこりと笑い、自分の飲み物を片手に
躊躇うことなく繕の隣まで降りてきた。

「村瀬さんだ。久しぶり。隣いい?」
名前はキナだった、と繕は隣に座られて思い出す。
成人しているはずだ、と記憶しているが、やはり幼く見えるのは
愛らしい顔立ちと甘えたがりな雰囲気を隠さないせいだ。
「なに飲んでるの? 今日はひとりなの?」
繕のグラスに手を伸ばしながら、キナは小さく首を傾げる。
まるで一緒にいた連れのように振る舞っているが、繕ははっきりと
フロアの方から刺すような視線が流れているのを感じた。
それはキナに向かっているのに、当の本人はまったく気にしていない。
カウンター周囲にいたのはキナの連れたちらしい。
「なんで黙ってんの? 怒ってんの?」
一度も口を開かない繕に、ようやくキナは少し顔を曇らせた。
繕は隣に視線を戻し、
「怒ってはいないが、お前を待ってるんじゃないのか。あの男が」
そう言ったのは、キナを見つめながら繕にはっきりと好意的でない
視線を向けてくる男のことだ。
キナは知ってるよ、とあっさり答え、
「仕事の付き合いのあったヤツなんだけど、しつこいんだよねー
ああゆうの、俺きらい」
すききらいで相手を判断するのも、どこか子供らしい。
「仕事の忘年会だったんだ、今日。んでここに流れて来たんだけど
正直帰りたいなーって、どうやって振ろうかなーって思ってたとこ」
「当て馬にするつもりか」
「極上のサラブレッドだもん」
これ以上ない相手だ、とキナは笑う。
春則が以前、どうしても甘えさせてしまう、と言っていたのを
繕はしみじみと感じていた。
同感だと思ったのだ。
繕は拒絶することなく、キナの腰に腕を回してやった。
さらに身体が密着したが、カウンターから見ている男はまだ
諦められないように気にしている。
「こういうことを他の男としていると、怒る男がいるんじゃなかったか」
キナの相手は弁護士をしていて、誰よりもキナを甘やかしていると
春則がぼやいていたのも覚えている。
キナは嬉しそうに笑って、
「いいの。だって犬養さん今いないもん。いないのが悪いんだよ」
だから違う男に助けてもらう。
キナはさらに甘えるように繕の膝に乗った。
さすがに跨いだわけではなく、横乗りだったが繕も突き放すでもなく
背中に手を添えてやったのに、カウンターから注がれていた視線は
ようやく離れていった。
「村瀬さん、髪触っていい?」
「構わないが、ぐしゃぐしゃにするなよ」
「乱れた村瀬さんも、色っぽいんだろうなー春則いいなー」
「俺に興味があるのか」
「村瀬さんは俺に興味ないの」
問いかけに質問で返すキナは、思ったより柔らかいと繕の髪を
梳きながら顔を寄せた。
少し顔を寄せるだけで、唇が触れる距離だ。
しかし繕は身体を少し離し、自分の内ポケットから煙草を取り出した。
咥えて火を付けながら、ゆっくりと紫煙を吐きだす。
「その気もないのに男の膝にのる子供に、興味はない」
「子供じゃないよ!」
即座に言い返したキナに、繕は口許を緩めて笑った。
それを目を瞬かせて見ていたキナの、冬だというのに大きく開いた
襟ぐりに顔を寄せ、細い鎖骨に歯を立ててやった。
「ん、あ・・・っ」
軽く吸って舐めると、キナが甘い声を零す。
啼かせてもいい声だな、と思ったが、繕はすぐ顔を離した。
「ガキだろ」
「もう! 子供じゃないってば!」
憤って見せるキナを膝の上で遊ばせて、繕は煙草を短くする方が
重要だというように紫煙を吐く。
しかしその唇が笑っているのに、キナは気付いていなかった。
この店では見えにくいかもしれないが、白い肌にははっきりと
繕の痕が残っているはずだ。
これを見たキナの男がどういう反応をするのか、そしてキナが
どうするのか、想像に難しくないと繕は笑ったのだ。

待ち合わせの男が呆れて2人を見下ろして来るまで、キナは
繕の上で甘え続けていた。



****

日曜日、倉敷でランデヴーがありました。
いつも一緒の旭陽くんと、久しぶりの羅夢.ちゃん。そして
初めまして、なうり.さんです。
楽しかったです。
沢山話しましたから! もっとしゃべり続けたいくらい
楽しく話しました! 初対面にも関わらず、私の相手を
してくれたうり.さんありがとう・・・
羅夢.ちゃんは本当久しぶりだった。お仕事もいろいろ
大変そうで、心配だけど、こうして会って和やかになるなら
もっとたくさん会いたい。今度は熊本だね!
そして慣れてしまってぞんざいな扱いになりがちの旭陽くん。
ちゃんと君のこともスキダヨ。ダイジョウブダヨ。

さて今回のSSは。
そのおしゃべりの折りに、出てきたシーン。
キナを好きだと言ってくれてありがとう!
そして繕と春則も愛してくれてありがとう!
なのでお礼をかねて。
やっぱり繕はキナが乗っても気にしませんでした(笑
そしてもちろん、最後に呆れて登場してきたのは春則さんです。
キナの気付かない繕の悪戯を見て、さらに呆れているんでしょう(笑

現実では来週私も忘年会です。
ぱーっと食べて飲んでしてきたいです。

 

【2010/12/08 13:19 】 | SS | 有り難いご意見(2) | トラックバック()
美しい女


美しい女だった。

美沙子は自分が美しいことをよく知っていた。

美しさゆえ見られることも慣れているし、褒め称えられることも慣れている。

美沙子にとって美しくあるということは生きるということだった。

美しくあれば誰より自由で、そして優雅に生きられた。


ホテルの二階にあるカフェに座っていた美沙子は、
その端から吹き抜けの一階ロビーに視線を落としていた。

様々な人間が出入りしている場所で、人目を引いている人間を見つけた。

着ているものはどこにでもあるようなグレイのスーツだ。

背は日本人の標準よりは高いが、どこにでもいるような男に見えた。

しかし見られていた。

見られている本人は、慣れているのかそれに気付いていないのか――
おそらく後者だと美沙子は思った。

普通の男であるはずなのに、注目を浴びているのはその美しさゆえだった。

確かに男にしか見えないはずなのに、同性でも息を飲むほど美しい。

慣れなければ見とれてしまうこともあるだろう。

待ち合わせをしているのか、男は何度か時計を確認して
出入り口のドアをただじっと見つめていた。

そのうちに、男は美しい顔を歪めるように表情を変えた。

喜んでいるのか、悲しんでいるのか、判断出来かねる顔だ。

自分で自分の気持ちがまとまっていないからそんな顔になるのだと、
美沙子は知っていた。

待ち合わせの相手が目の前に立ち、男は元通りの美しい顔に戻った。

しかし戻ったように見せているだけで、内心は不安と喜び、
そして戸惑いに揺れているのだろう。

待ち合わせていた相手はさらに背の高い男で、まだ若いようだ。

態度は落ち着いているものの、選んでいる服装もカジュアルなもので、
しかしそれがよく似合っていた。

おそらく、美しい男よりも自分に似合うものを知っているのだろう。

「馬鹿な子」

美沙子は細い指先に細いシガーを挟み、ゆっくりと紫煙を吐き出した。

呟いた声は艶の良い唇から零れる煙に混ざり、
聞き止めるものは誰もいなかっただろう。


美沙子は自分が美しいことを自慢して生きているわけではない。

ただ美しくあることを、隠すこともしなかっただけだ。

高いヒールに包まれた足先から、後ろでまとめ右肩にゆるく
流れる髪先、綺麗に整えられた指先まで、美沙子は全てが美しい。

光沢のあるワンピースは膝下までの長さがあったが、
脇のスリットは腰まで入っていた。

美沙子が優雅に足を組むと、どきりとしながらも思わず見てしまうほどだった。

肌は瑞々しく、黒子のひとつもその身体にはないように見えた。

若く見えるが、20代には見えない。

かといってそれ以上年を取っているようにも見えない。

年齢不詳の美しい女が、美沙子なのだ。

美沙子が出産経験があると言っても、やはり誰も信じないだろう。


せっかく美しく産んであげたのに、やっぱり不器用にしか生きられないの。


美沙子はロビーを見下ろし、美しく成長した男をただ見ていた。

子供を産んだとき、美沙子は子供が自分と同じようには
生きられないだろうと直感した。

不器用な父親のせいかもしれない。

不器用さゆえ、たった一度のセックスだったけれど、
美沙子は妊娠することをどこかで確信していた。

だから子供に、その人生そのものを予測して名前を付けた。

どうやら美沙子の予想は外れることなく、せっかくの美しさを
手にしながら不器用に生きているようだった。


「美沙子さん、お待たせ――何を見ているの?」

若い男が、上品なスーツに身を包み美沙子のテーブルに寄り、
その視線を一緒に追った。

「ああ、ロビーで僕も見たよ。とても綺麗な男性がいたんだ。
どこか――美沙子さんに似ていたような気がする」

「息子よ」

美しい唇からはっきり答えた美沙子に、相手はとても楽しいことを
聞いたというように笑った。

「面白い冗談だね。さぁ、そろそろ時間だよ」

上流階級に育ち、上等な男になるだろう相手は、しかし若かった。

美沙子があと何年かで半世紀生きているという事実も、
おそらく気付いていないだろう。

「馬鹿な子」

灰皿にシガーを押し付け、最後の紫煙を吐き出しながら呟いた言葉を、
今度は聞き取れなかったのか相手は首を傾げた。

美沙子はもう一度答える代わりに、手を取るように差し出し艶然と笑った。

それだけで相手は満足していた。


馬鹿な子。やっぱりそんな人生を歩むことになって。
精々その名前の通りに生きることね。


美沙子はそこで、初めて気付いたと何度か瞬いた。

それまで予想していたことを間違っているとは思わなかったが、
初めて違うことを思ったのだ。


それとも、そんな名前を付けたからそんな人生なのかしら――?

 



 

美しく散ることが、その総て

 

華開くときよりも、散るときが美しくあればいい

お前の名前の通りに――ミチル



*******


ええと。誰のお母さんか解かったでしょうかー?
これは連載直後くらいから考えてた小話です。
ようやく吐き出した感じだ。

日々いろんなことが起こります。
東の国から帰った私は、それに振り回されて
あっというまに時間が過ぎる。
あー時間を止めて~とか言いながら車で
かかってるのは笹川美和の「止めないで」

おうちのリビングにとうとうストーブが出ました。
エアコンよりましですが、暑すぎるのがどうも嫌。
あの温国で、どうしてうちの家族は平気で暮らすのかなー
自分の部屋にヒーターを入れようかどうしようか
悩み中なのでした。
愛用のちゃんちゃんこでまだ行ける気がする・・・つか
大丈夫だ。
ちゃんちゃんこは暖かいですよ!
(綿入れ推奨委員会代表)

【2010/11/29 12:24 】 | SS | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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