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【2025/08/22 09:30 】 |
王さまをやめる日 14

「気持ちとか、王さまのいう通りとか、勢いだとか、
それは私のことなんですか?」

正直ちょっと、勝てると思わないのは
三人のそろった上背のせいかもしれない。

だけど私も負けるわけにはいかない。

なぜなら王さまの言葉が、私を動揺させるからだ。

「貰う」というのは、いったいどういうことなのだろう。

私はどうなるのだろう。

不安も入り交ざった気持ちに、王さまは世界に何の異常も
起こっていないかのようににこやかに笑われた。

「私が王を辞めたあとで、お前だけここに残っていても
仕方ないだろう? 連れて行くことにしたんだよ」

どこへ。

王さまの突拍子もない発言に、私は混乱して
意味もない質問を返してしまった。

呆然としたままの私に、王さまはやっぱり変わらない顔で答えられた。

「どこへでも。だって私は自由になるのだから」

「自由になるのは明日の式が終わってからだ」

「最後まできっちりと仕事をしてもらわなければ
こっちが成り立たないからな」

にこやかな王さまの隣で難しい顔をする兄と
王さまの双子の弟は、王さまのことも呆然としたままの
私のことも気にしていないようだった。

ひとしきりまた三人で言い合った後で、
王さまはゆっくりとソファから立ち上がられた。

「さて、今頃混乱して右往左往してる五老院たちに説明してくるかな」

「きっと盛大に慌ててくれることだろう」

「しわくちゃジジィ共の歪んだ顔はさぞ見ものだな」

いつもは王さまに小言を言ったり自分の欲を
満たしたりするだけの五老院たちを、私はこの三人の
人の悪い笑みを見て少しだけ同情した。

三人は私を置いて部屋を出て行かれようとしたが、
見送るしかできなかった私を振り返り、

「お前を騙す形で悪かったけど、お前の気持ちが
固まっているのなら俺は反対しないよ」

私の頭を撫でて言ったのは兄だ。

「お前が優秀な小姓だということはよく聞いている。
このふざけた男に飽きたらすぐ俺のところにおいで」

兄と同じところを撫でて言ったのは王さまの双子の弟だ。

「遅くなるけれどここへ帰ってくるから、
待っていておくれ。明日を一緒に迎えよう」

私の頬を掬うようにして顔を上げ、耳に口付けと一緒に
囁いたのは王さまだ。

あまりにたくさんのことがありすぎてまだ混乱から
戻らない私は、いったい何を言われたのか理解することが
出来ずそのまま王さまたちを見送ってしまった。

そしてドアが閉じられ、王さまの自室に何の音も
聞こえなくなってからじわりと体温が上がり、
それからようやく頭が理解した。

全身が沸騰してしまうかと思った。


つづく

 

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【2011/01/18 12:18 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(1) | トラックバック()
王さまをやめる日 13

王さまの双子の弟は、命を取らないまでも
王宮にそのまま居続けると本人の知らないところで
勝手に何かの駒にされかねない雰囲気だったので、
王さまのお父上はひっそりとその存在を消すことにされたそうだ。

王さまの双子の弟は、自分の出自を知りながら
市井で独自に力を付けるべく動いていたらしい。

王さまはそれを知っていたし、
それは王さま独自の情報を持っていたということになる。

繋ぎ役は、もちろん王さまの乳兄弟で幼馴染でもある、兄だ。

王さまの双子の弟が生きていたことは納得できた。

しかし、だからといって今のこの状況が納得できるかといえば、否だ。

私は年上の三人をまっすぐに見つめた。

全身から怒りのオーラが出ていたのは、仕方のないことだろう。

「それで、その弟さまが、どうして兄と一緒に
テロリストをされていらっしゃるんです?!」

納得できる説明をもらうまでは決して誤魔化されるものか、と
意思を強くした私に、王さまはまったくいつもと同じに
悪戯を教えるように笑われたのだ。

「インパクトがあるだろう?」

それで、澄ますお積りだろうか。

本気で、と私がいっそう強く睨んでも
、王さまはいつものようにまったく気にされない。

むしろ兄と王さまの双子の弟のほうが心配そうな顔をしただけだ。

「それより、この子の気持ちを確かめたら、
私のいう通りだったら、貰っていいって言っただろう?」

「それは・・・」

「いや、勢いで言っただけかもしれない。もう一度確認したほうが」

年上の三人は、私のことを言っているようだが
まるで私のことを無視して話を進めているようだ。

いったい何が、どうしてこの状況なのかまず最初に説明を
求めるのは私のわがままなのだろうか?


つづく

【2011/01/17 16:07 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 12

どういうことだろう。

質問する目をいったいどこに向ければいいのか一瞬解らなかった。

なにしろ銃を向けられた王さまと銃を持ったテロリストが
まるで今日の予定を話すように普通だったからだ。

私を「お前」と呼ぶ気安い雰囲気を持つテロリストは、
もう一度肩を落とすように息を吐いて銃を片手に覆面を取った。

私は素顔を見て、テロリストが王宮を襲ったと聞いたときより目を開いて驚いた。

「――兄さん?!」

片眉を上げて苦笑する顔は、最近会うことも少なくなったけれど
見間違うことなどできない兄の顔だった。

そして王さまに銃を向けていたテロリストもそれを肩に上げ、
乱雑な様子で覆面を剥いだ。

その素顔に、私は開いた口が閉じることが出来なかった。

最初から最後までソファで寛ぐ、王さまそっくりだったからだ。

服装はテロリストそのもので、髪も少し長めだしどちらかというと
王さまより精悍な雰囲気があるが、やはりどうみても王さまだった。

私は息が止まるほど驚いたものの、必死で頭を働かせる。

王さまと同じ顔だ。

考えて、ありそうな事実はひとつしかない。

産まれてすぐに存在を消されたという王さまの双子の弟だ。

しかし私は今まで王宮で、王さまの弟が
生きているということを聞いたことがなかった。

ただ似ているという、まったくの他人なのだろうか。

動揺に揺れるも、その考えが真意でないと私は
どこかで知っていたのは、王さまの顔がとても穏やかで、
そして兄が事情を教えるように笑っているからだ。

「まさか――」

嗄れる声で確かめようとすれば、王さまがとても楽しそうに笑われた。

「あの優しい父が、自分の子供を本当に殺すと思うかい?」

私は王さまのお父上を間近では知らないけれど、
王さまのお父上なのだから、
王さまのいう通りなのだとあっさりと納得してしまった。


つづく

【2011/01/16 12:35 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(2) | トラックバック()
王さまをやめる日 11

テロリストが王さまのことを知っているのは驚いたが、
私には別の気持ちで溢れかえっていた。

明日で王さまは王さまを辞める。

だからといって、王さまがこの世から
いなくなってもいいということにはならない。

いや、むしろ、王さまでなくなったらいなくなるというのなら、
私は玉座に縛り付けてでも王さまには王さまでいてもらう。

「王さまは必要な方です。誰よりも必要な方です」

「誰にとって必要なのだ。王でなくなるのなら、
ただの男になるだけだろう」

「この男がこの国を腐敗させたのだ。王だからな。
我々はこの男を見せしめにもしなければならない」

テロリストから次いで言われて、
私は目の前が真っ赤になった気がした。

「必要なんです! 生きていくために! 王さまでなくなっても、
いつどこで何をしていても、どんな風に生きていようとも! 
私が生きていくのに、王さまが必要なんです!」

この気持をどうしたら解かって貰えるのだろう。

王さまが王さまであることが大事なのではない。

私にとって誰よりも大事な方が、何より大切な王さまなのだ。

「銃を下してください。私に向けてください」

目が熱い。

泣いてなどいられないと思ったのに、感情が高ぶってしまっている。

王さまを見ると、銃を向けられているというのに
満面の笑みで私を見ていた。

王さま、状況を解かっていらっしゃいますか?

どうして殺されようとしているのに、そんなに嬉しそうなんですか。

「ほら、言ったとおりだろう? この子は私が貰って行くよ」

王さまは笑顔のまま、テロリストに話しかけた。

王さまに銃を向けていないテロリストが
覆面のまま天を仰ぎ、大きく息を吐いた。

肩を下ろし、お手上げだ、というようなポーズだ。

「まったく、こんな王のどこがいいんだお前は」

「すべてに決まっているじゃないか、ねぇ?」

テロリストと王さま、二人から言われたのは私だ。

いったい――どういうことだ?

私は変化した状況に、今度こそ頭がついて行かなかった。



つづく
【2011/01/15 12:42 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
王さまをやめる日 10

中に入ったとたん、私は硬直した。

一歩部屋へ入った私の横をドアが音もなく閉まっても、
私は動けなかった。

大きなソファは王さまのお気に入りだ。

そこにいつものように座る王さまに、いつもはいない男が二人。

覆面をしたテロリストだった。

両手で持つ銃を構え、一人はその先を王さまの頭に向けている。

室内の三人から見つめられていたけれど、
私は王さましか見えなかった。

しかしいつまでもこうしていても状況は変わらないのだ。

私は何度か大きく息を吸い込み吐き出し、
震える声をなんとか抑えて口を開いた。

「要求は・・・なんですか。何でも伺いますから、
とりあえずその銃をおろしてください」

「我々の目的はひとつ」

王さまに銃を向けた男が言った。

覆面をしているせいか、くぐもった声になっている。

「この国の政治体制を変える。そのために、
我々は立ち上がった。国の未来を憂う憂国集団だ」

憂国?

国の未来?

王さまの頭に銃を向けておいて、
いったい何を言っているんだろう。

私はテロリストの言葉を馬鹿げているとしか思わなかったが、
王さまの命が晒されている今、相手を挑発するのはまずい。

私は一度頷いた。

「この国を想うあなた方の気持ちは解かりました。
けれど武力をもって改革を行うのはどうかと思います。
今は良くとも、後々何かが起こったとき、また武力に
頼ることになる。それでは国は成り立ちません。
話し合いの席を設けましょう。それでも誰かが
血を流さなければならないというのなら、私にそれをお願いします」

一度も揺らぐことなく、私は言い切った。

この言葉に何の偽りもない。

王さまが王さまでなくなるのであれば、
その後の国がどんな体制だって構わない。

だけど王さまが殺されることを考えたら、
私はその前に死んでしまいたい。

倒れる王さまなんて、見たくないのだ。

もう一人のテロリストが私を真っ直ぐに見詰めた。

「この王は、明日引退するのに、命を守るのか?」


つづく

【2011/01/08 12:17 】 | 王さまをやめる日 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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